「相続する」ということ

「相続する」って、良く聞く言葉ですが、じゃあ改まって「相続する」って何?と訊かれた
とき、なかなか説明難しいですよね。
民法には、「相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。
ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。」(民896)という規定があります。
つまり、本人に与えられた(一身に専属した)資格とか、運転免許などを除いて、亡くなった人が
持っていたすべての権利や義務を承継すること、それが「相続する」ということな訳です。
ここで注意なのは、承継するのは権利、つまりプラスの財産だけでなく、義務、つまり、借金など
負っていたマイナスの財産も引き継ぐことになる、ということです。
プラスだけ貰ってあとは知りません、ということはできない訳ですね。
だから、一定の期間中に相続するかどうかの意思表示が認められている訳なのです。

一切の権利(義務)に含まれるもの

じゃあそもそも、「財産に属した一切の権利(義務)」とは、具体的にはどういうものを指すの
でしょうか?
財産に属した権利には、
 ①不動産や動産の所有権や占有権などの物権
 ②預金や貸付金などの債権
 ③著作権や特許権などの無体財産権
など、有形無形は問わず、平たく言えば誰が見ても亡くなった人のものだよね、となるものが
これに当たります。
具体的には、土地、借地権、家屋、現金、預貯金、貴石貴金属、書画骨とう品、株式や債券等の
有価証券、ゴルフ会員権、自動車、金銭債権などになります。
もちろん、相続税においても、これらの物を承継すれば相続税の課税対象となります。

それ以外にも相続税が課税されるものがある

実は相続税は、これらの民法上で財産とされるものだけでなく、それ以外にも実質的に財産と
同様の経済的効果があるものについては、遺産とみなして課税をしています。
その代表選手が「生命保険金等」です。

例えば、ある人が亡くなり、2人の子が相続人となったとします。
1人(仮に子A)は亡くなった人から現金として2,000万円貰いました。
そしてもう1人(仮に子B)は、亡くなった人が生前に契約して、保険料を支払っていた生命保険
会社から、受取人として死亡保険金2,000万円を貰ったとします。

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民法の世界では、子Aが貰った現金2,000万円は亡くなった人の遺産として考えますが、
子Bが貰った生命保険金2,000万円は亡くなった人の遺産とは考えません。
子Bがもともと持っていた保険金請求権という権利を、行使して受け取っただけだ、という解釈を
します。(難しい言い方をすると、受取人固有の財産、という考え方です。)
つまり、同じ2,000万円でも、子Aは遺産という扱い、子Bは遺産じゃないという扱いになります。

でも、それって不公平ですよね。
子Aも子Bも、親が亡くなったことにより同じ2,000万円という経済的価値のものを手に入れたのに、
方や遺産だから課税、方や遺産じゃないから課税しないとなると、不公平です。
そこで、相続税では、この生命保険金についても遺産とみなして課税をすることとしています。
このように、相続税の世界では遺産の捉え方が広く、遺産とみなすものがあります。
主要なものは次のようなものです。
 ①生命保険金等(相法3①一)
 ②退職的手当金、功労金等(相法3①二)
 ③生命保険契約に関する権利(相法3①三)
 ④定期金に関する権利(相法3①四)
 ⑤保証期間付定期金に関する権利(相法3①五)
 ⑥契約に基づかない定期金に関する権利(相法3①六)
 ※他にもあるのですが、省略します。

相続対策としての保険金

上の例のように、生命保険金は相続税の世界では遺産と扱われて相続税が課税されますが、
納税のための資金としてとらえた場合には、やはり有難い存在でもあります。
相続税は、相続の開始があったことを知った日(の翌日)から10ヵ月以内に申告が必要で、
かつ、納付も同じ期限となっています。
しかも、キャッシュの有無にかかわらず、財産があれば課税します。でも、納税は原則として
キャッシュで払うことになります。
よって、例えば、相続する財産の殆どが不動産で、キャッシュを殆ど貰わなかったとしても、
納税のためのキャッシュが原則として必要となります。
殆ど不動産しか相続しなかったのに、例えば納税額は1,000万円、とか言われちゃう訳です。
そのような場合、生命保険金は有難い存在になります。

そんなことから、生命保険金は相続対策、主に納税資金対策として活用されている側面も
少なくありません。
ただ、医療保障などの一部の保険を除き、保険に加入できる年齢はせいぜい70歳まで。
仮に入れたとしても、年齢が高くなれば保険料も高くなります。
また、保障も70歳あたりまでで終わりになるものも多くあります。
そんな訳で、早いうちからそのような対策をしていないと、年齢が高くなってからの
対策として考えるには無理があるケースもあります。